逆ピラミッドREVERSE PYRAMID
軽い重量から徐々に上げていく通常の「ピラミッド法」は採りません。 アップは最小限に済ませて体力を温存し、いきなりその日一番重いトップセットを1〜3回。 そのあと、かなり軽くしたセットを1セットだけ行って終わります。 重いセットを先に行う重量構成そのものが、身体に理想的なフォームを覚えさせる――「フォームは教えるものではなく、覚えるもの」という考え方が土台にあります。
チームレスキュー会長/トレーニング指導者/アルペンスキー指導者
1945年生まれ。80歳のいまも現役のパワーリフターとして世界の舞台に立ち続けています。 世界選手権優勝6回、アジア選手権優勝3回。2024年12月、タシュケントのアジア選手権では マスターズ4・59kg級スクワットで141kgの世界記録を樹立しました。 大怪我と引退を経て、68歳で世界王座に返り咲いた競技人生と、「追い込まない」トレーニングの考え方を紹介します。
追い込まない。
強くなるのは、寝ている間。
53歳で世界の表彰台に立ち、60歳で大怪我と引退を経験し、68歳で世界記録とともに王座へ返り咲く。そして80歳の現在も記録を更新し続ける ― その歩みをたどります。
国際大会デビュー戦。マスターズ2・60kg級でスクワット190kg/ベンチプレス110kg/デッドリフト210kg、トータル510kg。優勝まであと2.5kg差の2位に終わり、この悔しさが翌年の原動力になりました。
種目別3種目とトータルの4つ全てで金メダルを獲得し、初の世界チャンピオンに。当時は60kg級で闘っていました。
スキーのレーシングキャンプで大転倒し、左膝の靭帯を断裂。再建手術を受け、60歳の誕生日は車椅子で帰国しました。この頃に白馬へ移住。パワーリフティングからは一度、完全に退きました。
人生の師匠の「世界一になりなさい」という言葉を契機に現役復帰を決意。同年、長野県パワーリフティング協会を立ち上げ、競技の土台づくりから再出発しました。
第1回ワールドクラシックマスターズ選手権、マスターズ3・66kg級でクラス最年長ながら優勝。新設階級の初代世界王者となり、スクワット170kg/デッドリフト205kg/トータル455kgはいずれも世界記録でした。同年、Facebookグループ「コンディショントレーニングを考える」を開設し、メソッドの公開を始めます。
マスターズ4・74kg級で優勝。スクワット180kg/ベンチプレス92.5kg/デッドリフト208kg/トータル480.5kg、スクワット・デッドリフト・トータルで世界記録を樹立。同年の練習では、69歳でスクワット200kg×3回も達成しています。
マスターズ4・74kg級で優勝(スクワット182.5kg/トータル462.5kg)。このスクワット182.5kgは、いまも74kg級の世界記録として残っています。
マスターズ4・66kg級で優勝(スクワット165kg/デッドリフト180kg/トータル425kg)。肩と膝に再建手術を重ねながらも、世界の第一線で勝ち続けました。
マスターズ4・59kg級で優勝し、60kg級から74kg級まで4つの階級での世界タイトル制覇を達成(スクワット110kg/デッドリフト150kg/トータル325kg)。
マスターズ4・59kg級で優勝。スクワット141kgは世界マスターズ4記録として認定され、現在も保持する現行の世界記録です(トータル348.5kgもアジア記録)。
12月のアジア選手権、マスターズ4・59kg級で優勝(スクワット130kg/デッドリフト145kg/トータル337.5kg)。同年7月には国内で新設されたマスターズ5・59kg級スクワット130kgの日本記録も樹立しました。80歳、衰え知らずの現役生活が続いています。
国際大会の主な成績です。数値はIPF公式データベース「Goodlift」と「OpenPowerlifting」で確認できたもののみを掲載しています(単位:kg)。
| 年・大会 | クラス | スクワット | ベンチプレス | デッドリフト | トータル | 順位 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1999 世界マスターズ選手権(南アフリカ) | M2・60kg級 | 190 | 110 | 210 | 510 | 2位 |
| 2014 世界クラシック選手権(ポチェフストルーム) | M3・66kg級 | 170 | 80 | 205 | 455 | 優勝 SQ・DL・Total 世界記録 |
| 2015 世界クラシック選手権(サロ) | M4・74kg級 | 180 | 92.5 | 208 | 480.5 | 優勝 SQ・DL・Total 世界記録 |
| 2016 世界クラシック選手権(キリーン) | M4・74kg級 | 182.5 | 90 | 190 | 462.5 | 優勝 |
| 2018 世界クラシック選手権(カルガリー) | M4・66kg級 | 165 | 80 | 180 | 425 | 優勝 |
| 2023 世界マスターズ選手権(ウランバートル) | M4・59kg級 | 110 | 65 | 150 | 325 | 優勝(4階級制覇) |
| 2024 アジアクラシック選手権(タシュケント) | M4・59kg級 | 141 | 67.5 | 140 | 348.5 | 優勝 SQ 世界記録(現行) |
| 2025 アジアマスターズ選手権(イスタンブール) | M4・59kg級 | 130 | 62.5 | 145 | 337.5 | 優勝 |
※ M2=マスターズ2(50歳代)、M3=マスターズ3(60歳代)、M4=マスターズ4(70歳以上)の年齢区分。1999年はフルギア(装備あり)、2014年以降はクラシック(ノーギア)部門の記録です。
スクワット 141kg マスターズ4・59kg級/2024年 タシュケント
スクワット 182.5kg マスターズ4・74kg級/2016年 キリーン
沖浦メソッドの出発点は、常識への疑問です。「如何に手を抜いて強くなるかが勝負」―― 練習は2日に1回、20分ほど。追い込まず、疲れ切る前に終える。 それでも生徒たちは強くなり、本人は80歳で世界記録を更新し続けています。
ここに紹介するのは、沖浦氏自身が約30年の競技と指導の中で実践し、2014年からFacebookで公開し続けてきた経験に基づく考え方です。 本人も「ほぼ全てが経験から来る閃きと実践、その結果から導き出している」と述べています。その前提でお読みください。
軽い重量から徐々に上げていく通常の「ピラミッド法」は採りません。 アップは最小限に済ませて体力を温存し、いきなりその日一番重いトップセットを1〜3回。 そのあと、かなり軽くしたセットを1セットだけ行って終わります。 重いセットを先に行う重量構成そのものが、身体に理想的なフォームを覚えさせる――「フォームは教えるものではなく、覚えるもの」という考え方が土台にあります。
短いインターバルでセットを重ね、身体を低酸素に近い状態に追い込む沖浦氏命名の方法です。 代表は低酸素スクワットやヘックスバーデッドリフトで、インターバルは50秒。 分量は週2回・1回15分までが目安で、やり過ぎは逆効果とされます。 沖浦氏の考えでは、高地トレーニングや減圧室(低酸素ルーム)は不要で、自宅やジムで実践できることが要点です。 スキーなど標高の高い環境で闘うための基本体力づくりに位置づけられています。 その主役であるヘックスバーについては、この下で詳しく紹介します。
体幹づくりの基本は、お腹を引っ込めるのではなく膨らませて腹圧で「ソフトに固める」こと。 固めながらも弾力を残すことで、荷重に耐えながら衝撃を吸収できると沖浦氏は考えます。 逆に、お腹を引っ込める「ドローイン」や、それを土台にしたコアトレーニングについては、 体幹の柔軟性を失わせるものとして一貫して批判的です。 腹圧は正しいフォームのフルスクワットとデッドリフトを続ける中で身につく、というのが実践上の立場です。
一般的なフォーム指導で定番とされる3つを、沖浦氏は「やってはいけないこと」として挙げます。
深くしゃがめば膝が前に出るのは必然で、それを禁じる指導こそが故障の原因になる、というのが沖浦氏の見解です。
スクワットはしゃがみ切るフルスクワットが前提です。 ハーフ(中途半端な深さ)では太ももの裏側や内転筋が十分に働かない、と沖浦氏は説明します。 ジムでの到達目標として示されてきたのは、男性でフルスクワット100kg×3回、女性で70kg×3回。 「スクワットはドラマです。人類は、立ち上がることでホモサピエンスになった」という言葉に、この種目への思い入れが表れています。
「トレーニング中に強くなるのではない。良質な短時間のトレーニングと食事のあと、睡眠の間に神経回路がつながり、強くなる」―― だからこそクタクタに追い込む練習は避け、休養を練習の一部と捉えます。 「1日休んだら取り戻すのに3日かかる」は誤りで、正しく鍛えれば休んでも力は落ちにくい、というのも持論です。 重量は5kg刻みで少しずつ上げる漸進が原則。トップセットで3回上がれば、次は5kg重くする。この積み重ねが、80歳の世界記録まで続いています。
トップセットの目標重量を入れると、沖浦式の組み立て方の目安を表示します。あくまで方法の考え方を体験するための簡易計算です。
| アップ ①(フォーム確認) | ― | × 3回 |
|---|---|---|
| アップ ②(最小限に) | ― | × 1回 |
| トップセット(本番) | ― | × 1〜3回 |
| バックオフ(軽く1セットで終了) | ― | × 5回 |
トップセットでフルスクワット3回が決まれば、次回は5kg上げます。決まらなければ同じ重量で。調子の悪い日は無理をしないことも、この方法の一部です。
沖浦メソッドの輪郭は、「何をするか」だけでなく「何をしないか」にも表れます。 ここに挙げるのは、沖浦氏自身がFacebookへの投稿で繰り返し述べてきた、世間の常識への異議です。 いずれも本人の経験に基づく考え方として紹介するものであり、科学的な結論として断定するものではありません。
体力作りの手段としてのランニングには、沖浦氏は否定的です。 理由として挙げているのは、時間効率の悪さと故障の多さ ― 走る人の多くが毎年どこかを痛める、というのが本人の見立てです。
「ランニング信仰はバカバカしい」 沖浦克治氏の投稿より
ただし、「走れるようになる」こと自体は否定していません。 沖浦氏のトレーニングを続けた結果として、生徒がランニングの練習なしに0から22km走れるようになった例は、誇らしげに紹介されています。 つまり沖浦氏の立場は、手段としては否定、結果として走れるのは肯定 ― その違いに、この考え方の要点があります。
「有酸素運動が、なぜ不必要か?」と題して、沖浦氏は長文で持論を展開しています。 酸素を身体に取り込む能力そのものは必要だが、それは長時間の有酸素運動ではなく、 短時間で身体を低酸素状態に追い込む低酸素トレーニングで得られる ― というのが本人の考え方です。 だからこそ、沖浦氏の練習は20分ほどで終わります。
長時間かけて有酸素運動を中心に組み立てる、日本で常識とされてきたコンディショントレーニングのやり方を、沖浦氏は強く批判しています。 もっとも、沖浦氏自身のメソッドもかつては「コントレ」と呼ばれてきました。 その結論は正反対で、「コントレは20分で終わるもの」。 Facebookグループ「コンディショントレーニングを考える」という名前にも、 常識のまま受け取らず、考え直すという姿勢が込められています。
ケアや準備として当たり前とされる次の3つを、沖浦氏は行いません。 疲労や故障への対処は、方法を足すのではなく休養でまかなうという、休養論と一体の考え方です。
お腹を引っ込めて体幹を鍛える「ドローイン」も、沖浦氏は否定します。 引っ込めるのとは逆に、お腹は膨らませて腹圧で固めるのが沖浦式。 引っ込める動きは体幹の弾力を失わせる、というのが本人の見解で、 詳しくはメソッド紹介の「腹圧 ― お腹は膨らませる」で紹介しています。
※ 本セクションの内容は、Facebookグループ「コンディショントレーニングを考える」「アルペンレース トップレーサー育成」における沖浦克治氏本人の投稿に基づき、本人の考え方として紹介しています。
沖浦氏はアルペンスキーのレーサーであり、指導者でもあります。全日本マスターズGSで2位の実績を持ち、 トレーニング論はそのまま滑りの技術論へとつながっています。近年、メソッドの重心は「腹圧による身体操作」の指導へと広がってきました。
沖浦氏がアルペンの基本として挙げるのは、次の3つです。
「外脚一本・フルカービング」だけでは荒れたバーンに対応できない。 腹圧で内脚の太ももの付け根を押さえ、内脚で衝撃を吸収することで、 滑りの最中にも身体を休めることができる ― これを沖浦氏は「運動の中での休憩」と呼びます。 ゲートでは板を前に推し続け、身体をフォールラインへ落としていくことも要点とされています。
2005年頃に白馬へ移住して以来、チームレスキュー会長としてスキーワックスの研究開発を続け、 白馬でトレーニングジムも運営しています。エッジの仕上げは雪の上で行うものという用具への考え方や、 国内の育成現場への提言など、競技を支える側の活動も長く続けてきました。 筋力の目安として本人が示すのは、「体重の2倍を3回スクワットできると、滑りは化ける」という基準です。
― 沖浦克治の「追い込まない」トレーニング
約30年の競技歴と、2014年から12年にわたりFacebookに書き続けてきたトレーニングの考え方を一冊にまとめる企画が進んでいます。 「追い込まない。強くなるのは、寝ている間。」というメソッドの核を、世界記録までの歩みとともに伝える一冊です。電子書籍(Kindle)での刊行を予定しています。